ベールダンスは「今」を生きること

smallflyPhoto by Hirono

ベリーダンスの踊りのスタイルは多様ですが、中でもベールを使って踊るベールダンスはとても幻想的で美しい踊りです。
ベールダンスの魅力のひとつは、踊っている環境やちょっとした触れ方、動き方によってベールの表情が変わること。特にシルク素材のベールはとても軽いため、ちょっとした空気の動きで思いがけない動きをします。つまり踊り手はベールの動きを予測することができないし、完全にはコントロールすることができません。ましてや野外で踊ろうものなら風の流れでまるで命を吹き込まれたかのように勝手に動きます。

上に投げたベールが落ちてきたところを旋回しながら腕でふわっと絡めとる動きがあります。でもベールがどのように落ちてくるかは毎回違うのでうまく腕に絡んでくれるか分かりません。場合によっては床に落ちてしまうこともあります。
でも踊りは生物(なまもの)なので、何があっても踊り続けます。床に落ちたベールは優雅に拾い上げて次の動きに入ります。観客からすればそれが元々の演出であったかのように。
私のベリーダンスの師匠、Mishaalは”There are no mistakes in veil dance.”「ベールダンスに失敗はありません」と断言していました。
つまり、予定外のことが起きても「あ、失敗した!」と思わずに踊り続けるのです。ライブのパフォーマンスではハプニングがあった時こそ、踊り手としての力の見せどころで、人柄がにじみ出る場面でもあります。うまくリカバリーができた時に観客も感激します。

ハプニングに対処するためにはもちろんある程度のスキル(技術)は要りますが、何よりも大切なのは”Being in the moment.”、つまり「その瞬間に存在する(または意識を集中する)こと」。

ベールダンスでなくとも、踊っている時には何が起きるかは分かりません。足場が悪くてふらついたり、衣装の一部がとれてしまったり、音楽が突然止まってしまったり…。でも、「あ~、失敗したぁ~!」と過去を振り返らず、あるいは「失敗したらどうしよう!」と未来を心配せず、その時その場に完全に意識を集中して踊れば、あらゆることに冷静に対処できます。

ちょっとした空気の流れで動いてしまうベールを扱うベールダンスはその瞬間に意識を集中しているどうかを最も試される踊りかもしれません。
ベールで踊るということは、「今」という瞬間に完全に身を委ねることでもあります。「何が起きても大丈夫…」と。
だからこそベールダンスには見る人を魅了する美しさがあるのだと思います。

そしてベールダンスは人生そのものを教えてくれます。
次に起きることを完全には予測ができないしコントロールすることもできない。でも何が起きても失敗ではなく、そこから立ち上がって生き続ければ良い。そのためには過去を振り返らず、また未来を心配せずに「その瞬間を生きる」ことが大切で、「何が起きても大丈夫…」という確信をもって「今」という瞬間に自分を委ねる。

「踊ること」は「生きること」の比喩としてよく使われますが、今回はその中でも私が踊る上、そして生きる上でも大切だと感じていることをいくつか取り上げてみました。

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